浅くて深い関係。

 近所に住んでいるおばあちゃん(Kさん)は、去年の春ぐらいから徐々にぼけ始め、今年の春にはとうとうぼけがかなり進行してしまった。我が儘なおばあさんの為、子供も孫も遊びに来ない、ひとり暮らし。私は恰好の話し相手となって、早数年。毎日話はしないけれども、最近そのKさんが面白くて仕方が無い
 近所づきあいも全く出来てないので、話したい事があると私の家に来る。最初はよくぼけた人にある「物が無くなっちゃうの!」という話をよくしてくれた。「多分、週2日来るヘルパーだと思うの」ああ、危ないから隠したんだなぁと、思いつつ、「それは困りましたねぇ…」「でも、ご飯は宅配だから困らないでしょ。良かったじゃない、処分しようとした物もあったんでしょ?処分代が済んだじゃない」と、私は前向き発言。そうするとKさんも「そうよね、良かったわ!」喜んで帰って行くので、適当にあしらいつつ過ごしていた。
 それが最近は全く違うパターンで、先週家に来るように言われたので行くと、「見てよ!これ!」勉強が好きで勉強を今もしているというKさんらしく、英検の教材がテーブルの上に。「泥棒がね」ど、泥棒!?「持ってきたの!」も、持ってきたぁ!!!????
 笑いを堪えつつ、Kさんに「も、持ってくるって珍しい泥棒ですね」ほんまにw「そうなの、誰かしら」よく見ればそれはKさんが以前使っていたと思われる英検の教材で、でもKさんは「私のは使い込んでボロボロだったのに、こんな新品くれたの!」ああ、そう言えばヘルパーだかに部屋を整理して、要らない物を捨ててくださいって言われたって聞いたような…。だから、自分で出したのに、すっかり忘れて誰かが持ってきたんだって思い始めたんだ。
 その3日後に、Kさんが犯人が分かったから家に来てくれと、また家に来たので、また遊びに行く。「犯人はね、テレビを買った電気屋だったの!」で、電気屋!!「警察呼んでも取り合って貰えなくて…」そう、Kさんはぼけちゃってから警察をしょっちゅう呼ぶから、いい加減にしてください!と、怒られていて、団地でも話題の人なのだ。「それでね、分かったのよ。電気屋と警察がグルなのよ!」すげぇ前向きだ!!!!!
 しかもKさんったら「家にぼろぼろの長襦袢しかなかったのに」おう「新品が来たの」もう開いた口がふさがらない。「よくサイズ分かりましたねぇ。ああ、きっと泥棒さん、今度はもっといい物持ってきてくれるかもしれないから、もっといい物ください!って言ってるといいですよ」なんか、こっちまで前向きになってきました。

 そんなKさんが時々私に着物をくれるだの言ってくるんだけど、着物の出所も面白くて「私は真田幸村の末裔なの」知らなかったです「それで私は華族だったの」あらー凄いわ「この着物は、結城紬の凄いのでね……」よく分からないうんちくが並びます。私はチンプンカンプンです「だからあげるわ」「いや、そんな滅相な物を貧民が貰ったら罰が当たりますから…」こういうと大概引き下がるKさん。貧民と肩を並べて話すなど、娘時代には思っても居なかった事でしょうねぇ…何処まで本当か知りませんが。
 ぼけちゃったKさんは突拍子も無い事ばかり言うので、かなり面白い。暴力的になったり、反抗的になるのでは無く、かなり楽しい方向に行っているので、私が出来る事は喋って刺激して、ぼけを進めないようにする事位。ってか、弁護士と医者と大学教授の息子(Kさん曰く)は何をやってるんだろう、1度も会った事が無いんだが。本当に息子が居るのだろうか。気になるばかりだ。