何も言い出せずに 夜

 夕方ちょっと前に人が家に来る事になったから、早い時間から家に。本来なら数分で終わる話だったのに、うちの人見知りの猫が珍しくその人に懐き始めた。うちの猫はブラッシング中毒だから、その人にブラッシングして貰いたがって、「いいですか?」と、目を輝かせるその人を無碍に出来ず、ブラシを手渡したら、うちの猫ゴロゴロ、その人もくつろぎ始めてしまった。
 うちの家に来るのが最後の仕事だと分かっていたけれども、かなりなくつろぎモード。ブラッシング、猫と遊んだり、かなりまったりしている。忙しいから帰ってくれと、嘘を吐けない自分は、さて何時までこのムードは続くのか生暖かく見守る事に。
「いやー、あたしこういう部屋に住むの夢なんですよ〜」急に語り出す、己の夢。「ちょっと広めの部屋で猫が居て、近くに緑も沢山あって!いいですよね〜」うちは駅の無いこの都会の狭間をどうにかしたいと思っているんだが、それじゃ駄目なのか?
 愛想笑いで「そうですねぇ」大人の対応をする自分。相手は私の気持ちなんか分かりっこないから、もうかなりな勢いでくつろぎ始めた。まるで私の友人が家に来た時並で、一瞬夕飯をこの人の分も作らなあかんのやろか…いや、待て。冷蔵庫空っぽだ…と、考える位。
 ほんの数分で終わるはずが、2時間近く我が家に居たその人。笑顔で帰って行ったけれども、うちは何を話したか、なんの書類にサインしたか、さっぱり忘れる位だった。
 すっかり夜の帳も降り、真っ暗。慌てて自転車で買い物に行き、夕飯のお買い物。近所の猫に絡まれつつ、無事帰宅。今日は精神的に疲れた1日だった。